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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1162号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人岡田実五郎、同赤池基輝の上告理由第一点について。

被上告人が原判示のころ数回にわたり亡森口安次郎に対し債務の元利金の額をこえる金額の支払を口頭で申し出て本件宅地につき買戻の意思表示をした旨の原判決の事実の認定・判断は、挙示の証拠に照らして肯認することができないものではなく、右認定・判断の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について。

原判決認定の事実関係のもとにおいては、被上告人において、森口安次郎に対する債務につき利息の支払を二回以上怠り本件宅地の買戻権の喪失の事由が発生した後も、安次郎から買戻権喪失の通知があるまでは、なお債務一五万円の全額と利息とを提供して、買戻権を行使することができるものと解した原判決の判断は正当であつて、この点の事実の認定・判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について。

被上告人が本件宅地について買戻権を行使しうる約定または法定の期間が経過したとしても、森口安次郎が被上告人の債務の弁済の受領をあらかじめ拒否し、債務額をこえる金額の支払の申出を受けながら、買戻を応諾しなかつたなど原判決認定の事実関係のもとにおいては、安次郎およびその相続人である上告人らにおいて、被上告人に対し、あらためて買戻に応ずる意思を示し相当の期間を定めて買戻権の行使を催告するならば格別、その措置に出ないで、直ちに、期間経過による買戻権の消滅を理由に、本件宅地の所有権を確定的に取得したことを主張することは、信義則上許されないところと解すべきである。右買戻権がいまだ消滅していないものとして、上告人らの被上告人に対する建物収去土地明渡請求を排斥した原判決の判断も、これと同じ趣旨に出たものと解されないことはないから、右判断は正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷)

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